前入居者が自殺、孤独死…事故物件の告知義務、その現状は?

取引対象の不動産で過去に死亡事故が発生した事実などを「心理的瑕疵」といいます。その内容について、「どこまで告知するのか」「どこまで告知してもらえるのか」には、これまで一定の基準がなかったことをご存知でしょうか?

宅地建物取引士の高幡和也さんに教えてもらいました。

ようやく始まった「心理的瑕疵に対するガイドライン作成」の検討

古いアパート

th1215 / PIXTA(ピクスタ)

取引対象となる建物内で発生した人の死が、心理的瑕疵にあたるかどうかを定めている法令やガイドラインはこれまで存在しておらず、最終的には訴訟によってその判断がなされてきました。

国土交通省では、不動産取引において心理的瑕疵をどう取り扱うか明確に決まっていないことが、既存住宅市場活性化の阻害の一因となっているとして、2020年2月5日に「第1回 不動産取引における心理的瑕疵に関する検討会」を開催しました。
これまで一定の基準がなく、どのように取り扱うかが課題になっていた「心理的瑕疵の適切な告知、取扱いに係るガイドライン策定」の検討がようやく始まることになります。

「心理的瑕疵」の中身って何?

頭を抱える人

Graphs / PIXTA(ピクスタ)

多くの判例によれば、賃貸・分譲にかかわらず、その建物内(ベランダ等含む)で自殺があった場合、その建物を対象とした賃貸や売買などの取引を行う際は、それを心理的瑕疵として告知しなければならないと判示されています。
ただし、それを告知しなければならない期間等については、そのケースごとに判断が分かれています。

では、心理的瑕疵として告知される内容や、それを告知しなければらない期間など、これまで司法が心理的瑕疵についてどのような判断を下してきたのかを見てみましょう。

都市部の賃貸ワンルームで賃借人が自殺したことによる賃貸人の損害について争われた事案

都市部の賃貸ワンルーム物件の場合では、前入居者が自殺したことについて、事件後最初の入居者への告知は必要ですが、その次の入居者には一定の期間が経過していれば告知が必要ではないという判例があります。この判決では他にも、自殺事件の「3年後」からは当該部屋を以前の賃料で賃貸することが可能だと判示しています。

※出典 H19.8.10東京地裁「(略)本件物件が都市部のワンルームであり、近所つきあいが希薄であることを考慮すれば、本件事件後最初の賃借人には本件事件を告知する義務はあるが、次の賃借人には特段の事情がない限り告知する義務はない。(略)」/(一財) 不動産適正取引推進機構「建物賃貸借に関する紛争」

マンション群

ABC / PIXTA(ピクスタ)

家族と永住する目的で購入したマンションで、6年前に縊首自殺があったことが瑕疵だとして売主に契約解除と違約金を請求した事案

事故現場

Ushico / PIXTA(ピクスタ)

賃貸なのか分譲なのか、その取引の目的は何なのかによって、心理的瑕疵を告知するべき期間はそれぞれ違ってきます。6年前の自殺を瑕疵だとして、マンションの売買契約が解除され、違約金の請求が認められた判例があります。
前述した「建物内の自殺」という同じような事案でも、その背景や事情が違えば、その告知すべき期間などについて違った判決が下されることになるのです。

※出典 H1.9.7横浜地裁「(略)家族4人で永住的に使用する目的であった買主が、本件事件を知っていれば通常購入することは考えられないこと、事件後6年以上の経過もさほど長期であるとはいえない(略)」/(一財) 不動産適正取引推進機構「売買に関する紛争」

自殺以外の心理的瑕疵って何?

裁判

xiangtao / PIXTA(ピクスタ)

これまで自殺以外にも殺人事件、火災事故、建物建築中の死亡事故、孤独死など、心理的瑕疵については多くの事案が裁判で争われています。事案ごとに、それが心理的瑕疵に当たるのかどうか、そしてその告知されるべき期間はどれくらいなのかなど、裁判所が下す判断はケースバイケースです。

今後、心理的瑕疵の取り扱いに関するガイドラインが作成されることで、心理的瑕疵に「該当するか否か」や、「告知する期間はどれくらいか」等についての判断が迅速化していくことが期待されます。

宅建業者が心理的瑕疵を告知しないのは宅建業法違反に当たる?

物件の説明

Fast&Slow / PIXTA(ピクスタ)

実は、宅地建物取引業法(宅建業法)の条文のなかに、心理的瑕疵に関わる「告知義務」という用語は出てきません。

ただし、宅建業法47条では、宅地建物取引業者(宅建業者)が「宅地若しくは建物の売買、交換若しくは貸借の契約の締結について勧誘をするに際し、(中略)、故意に事実を告げず、又は不実のことを告げる行為」を禁止しており、この条文が宅建業者が告知義務を負う根拠となっています。

一般的に宅建業者は、自らが関わる不動産賃貸、売買の取引について、その対象物件の心理的瑕疵について知りえた内容はできるだけ借主や買主に伝えようとします。心理的瑕疵を知りながら告知しないことは、宅建業法違反に当たると考えられるからです。

しかし、心理的瑕疵が存在する物件は、その経済的価値(賃料や価格など)の低下は避けられませんので、物件内で発生した「人の死」等が心理的瑕疵に当たらなければ、貸主や売主が告知しない(告知したくない)と考えるのも当然かもしれません。

不動産取引のトラブルを最小限に抑えるためにも、心理的瑕疵の適切な告知、取扱いに係るガイドライン等が、一刻も早く明瞭に定められるべきではないでしょうか。

【参考】
※ 電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ「宅地建物取引業法
※ 一般財団法人 不動産適正取引推進機構 
※ 国土交通省 報道発表資料「第1回 不動産取引における心理的瑕疵に関する検討会

Source: 日刊住まい

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