岡山・赤磐市の森を切り開き東京から移住。「芸術家の村」をつくった作家夫婦

陶芸作家の白石齊さんとイコン画家の孝子さん

陶芸作家の白石齊(ひとし)さんは、今をさかのぼること25年前、岡山県赤磐市に移住。小山の中腹に「工悦邑(こうえつむら)」と名付けた芸術家村をつくりました。今ではこの地に様々な作家がアトリエを構えています。

齊さんは御年84歳。

「様々な人と縁あって、いろいろな土地で暮らしてきました」と話しますが、理想を追い求めてたどり着いたのが岡山の赤磐市だったのです。

「陶芸に導かれるように住む場所を変えてきた」

ガス窯

白石さん夫妻が岡山県赤磐市に芸術家村をつくり、暮らし始めて25年。この村にたどり着くまでの夫妻の人生はどのようなものだったのでしょうか。

岡山県津山市で生まれ育った齊さんは、中学・高校生の頃から陶芸に親しんでいたそうです。長じては日本初のカルチャーセンター、東京の産経学園で陶芸教室の講師となります。

夫作品1

「飽き性だけど気に入ったことはとことんやる」という性格の齊さんは、そんな環境の中で自身の陶芸技術に磨きをかけ、作家として独立。

その作品は、当時の著名な建築家が手掛けた建築物の数々にも取り入れられています。齊さんは活気のある文化が勃興した昭和の時代を駆け抜けてきたのです。

夫作品2

齊さんが独立した当初は、知人の誘いで茨城・笠間市にアトリエを構えました。その後東京・多摩市へと移住。
妻の孝子さんと結婚したのは1968年のこと。当時孝子さんは札幌に住む美術専攻の大学生でしたが、東京で行われた展覧会鑑賞の折に、叔母に齊さんを紹介されます。その後ふたりは結婚し、東京・多摩市で暮らすことに。

イコン

結婚後、孝子さんは3人の子どもを育てながら慶応大学文学部に入学し、美学美術史を専攻。そこでイコンを深く勉強します。結果、導かれるようにイコン画家となりました。

イコン2

「いずれの土地も縁があったわけではありませんが、陶芸に導かれるように住む場所を変えてきました」と齊さん。

孝子さんのアトリエ

しかし1992年、慣れ親しんだ多摩市を後にしなくてはならなくなります。

【この住まいのデータ】
▼家族構成

夫84歳 妻72歳

▼移住した理由

道路拡張による立ち退きをきっかけに「芸術家が集住する村をつくろう」と決意したことから。

▼居住スタイル

夫と妻、それぞれにアトリエがあり、「風の道」と名付けられた通路がふたりのアトリエを、ゆるやかに結ぶ。

「芸術家村をつくろう」と70余りの土地を回る

池の風景

その理由は道路拡張による立ち退きでした。末子が高校を卒業するまでの3年間のうちに、新しく住む場所を探さなければならなくなったのです。
これをきっかけに齊さんは考えました。

「どうせなら、ヨーロッパにあるような芸術家村をつくろう」。
そこから3年をかけての移住先探しが始まりした。
自然豊かで、創作のインスピレーションを刺激されるような土地を求めて山梨、千葉、茨城、静岡など70余りの市町村を探して回ったそうです。

妻アトリエ

初めは東京からのアクセスを考慮した場所を探していましたが、「もう遠くでもいいや」と思っていたときに、実弟に紹介されたのが岡山で考古学を研究する高校教師でした。彼に伴われて訪れたのが赤磐市のこの土地。

「中古の家を探すという発想はありませんでした。窯を置けるアトリエが必要ですから、必然的に自分で一から建てなければなりません。そのための土地を探していたわけです」(齊さん)。
その土地は草木がうっそうと生い茂り、人が通れる道もありません。鎌を片手に道なき道を上っていくと、森が開け、小さな調整池が3つある平地が現れました。

居間

この界隈は昔の寺社跡だそうで、手つかずの自然と人が暮らした形跡がありました。齊さんにとっては、やっと理想的な土地と出会えたと感じられたといいます。

森を切り開いて始めた自然との共生

夫アトリエ

車一台通行するのがやっとの山道をしばらく走ると平地が開け、潤沢に水をたたえた池の畔に建つ、大屋根が印象的な齊さんのアトリエが現れました。

夫アトリエ内

齊さんは土地を手に入れた後、森を切り開き、道をつくり、邑の礎をつくったそうです。
大きな梁と登り梁がダイナミックなこのアトリエも、齊さんが自分で図面を引き、施工したというから驚きです。

妻アトリエ外観

次に建てられたのが孝子さんのアトリエも兼ねる自宅。
アールの屋根が特徴的なこの家は、北屋建設の岡田勲さんによるもの。当時は自然の中に建てられたモダンな住宅として、数々の雑誌でも紹介されたそうです。
孝子さんは齊さんが移住した2年後には居を移し、夫婦そろっても創作活動が始まりました。

池と池の間にある「風の道」と名付けられた通路がふたつの建物を結んでいます。

玄関ホール

こちらは自宅1階の玄関ホール。ガラスに挟まれているのは昔の寺社遺跡から掘り出された巨石。この石が家の外と中をつなぐ、独特な設計です。

妻アトリエ内

孝子さんのアトリエは地下と1階の一部を大きな吹き抜けでつないだ構成。地下部分は自然光も入る作業室です。

アトリエ1階の書棚

アトリエ1階には書棚とデスクを設えました。吹き抜け上部の窓から池が眺められるのも孝子さんのお気に入りとか。

モザイクタイルの浴槽

モザイクタイルがエキゾティックな雰囲気を醸し出す浴室も個性的。建物のいたるところに作品が散りばめられています。

美術展の案内

そして夫妻は作家仲間に「邑に移り住まないか」と声を掛け、今ではこの地に陶芸作家、イコン画家、木工作家、織物作家がアトリエを構えています。以前は、様々なの作家を集めたアンデパンダンも開いていたそうです。

「この先もまだまだ新しい陶芸作品をつくり続けたい」という齊さん。
「自然と共生する暮らしは、表現活動にインスピレーションを与えてくれます」と孝子さん。

今、ふたりは創作活動に加え、畑をつくり、地域の自然を守るボランティアにも参画するなど旺盛な活動を続けています。
きっとこの先も、この地で自然とともに新しい作品を生み出していくことでしょう。

撮影/八杉和興(本誌)
※情報は「住まいの設計2020年4月号」掲載時のものです。

Source: 日刊住まい

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