いよいよAirbnb(エアービーアンドビー)でも「Go To トラベル キャンペーン」の適用が始まりました。そんななか、日刊すまいライター・なんでも大家さんが訪れたのは以前から気になっていた宿「スミレアオイハウス」。
日本建築の歴史に残る「最小限住居」(建築家・増沢洵さんが設計)を原型に建てられたデザイナー住宅で、「9坪ハウス」が商品化されるきっかけにもなった建築です。
もともとはある家族が暮らすふつうの住宅でしたが、築21年目を迎えて民泊として生まれ変わりました。そんな「スミレアオイハウス」の宿泊体験記をお届けします。
武蔵境駅から徒歩20分の静かな環境
降り立ったのは武蔵境駅。
新宿から約20分、三鷹のお隣の駅です。駅周辺を歩いてみると、生活に必要なお店はすべてそろっていて暮らしやすそうです。ゆったりとした並木道などもあり、環境も良さそう。
目的地である「スミレアオイハウス」までは歩いておよそ20分ほど。駅からは少々遠いですが、そのぶん静かでのんびりとした雰囲気なのはうれしいです。
なんといっても目を引くのは、正面の3分の2を覆う4面のガラス窓でしょう。外から丸見えのリビングというのは大胆に感じる設計ですが、箱をストンと置いたようなシンプルな外観なので、とんがった目立ち方はしていません。ちなみに、玄関は向かって左側にあります。
玄関ドアはミニマムサイズですが、正面のガラス戸も開けられるので、これで十分なのでしょう。
リビングは窓と吹き抜けで開放感抜群
9坪ハウスという呼び名どおり、「スミレアオイハウス」の建坪はたった9坪、1フロアの広さはおよそ30㎡しかありません。間取り図をごらんください。

提供/スミレアオイハウス
実をいうと、僕が妻と暮らしている世田谷のマンションの広さが、この1階部分と同じ9坪(30㎡)なのです。
「スミレアオイハウス」には2階があるので、延床面積としてはわが家より広いのですが、生活に必要な水回りのそろった1階部分の広さはわが家とほぼ同じ。
どんなふうに感じるか興味津々だったのですが、一歩足を踏み入れて広々とした空間に驚きました。
外観の特徴でもある大きな窓と吹き抜けのおかげで、リビングは実際の面積よりもずっと広く感じます。とてもわが家のリビングと同じ6畳とは思えません…。
中央の丸テーブルを囲むように4脚のイスが置かれていますが、狭苦しさはまったくありません。イスがすべて3本脚で統一されているのもすてきです。お茶を淹れて丸テーブルに腰かけると、まるでカフェにでもいるようなゆったりとした時間が流れます。
こちらは2階。吹き抜けがあるため2階の床面積はわずか6坪ほどしかありませんが、壁で仕切られていないのでやはり狭さを感じさせません。天井と窓がもたらす開放感こそ、この家のいちばんの特徴だと思います。
コロナ禍で「おうち時間」が長くなる昨今ですが、こんな家なら在宅での仕事も苦にならないかもしれませんね。
造作家具から間接照明まで細部に気配りが感じられる
面積ほど狭さを感じさせないのは、随所に造り付けの収納が備えられており、スペースがムダなく活用されているからでもあります。
こちらはキッチン。カウンターの左側には引き出しもあります。
余計な取っ手などのないシンプルなデザインが、すっきりとした印象を与えます。
手掛けたのは、この家全体のインテリアデザインを担当した小泉誠さん。先ほどご紹介した丸テーブルやイスも、小泉さんがデザインしたものだそうです。
造作といえば、洗面の下に洗濯機がコンパクトに収められているのも注目です。右の穴は洗濯物を入れるためのもので、その上の鏡の裏はキャビネットになっています。洗濯機まわりに漂いがちな生活感を感じさせない工夫が詰まっています。
間接照明が効果的に使われているのも印象的でした。
畳が敷かれた部屋の小さな床の間のようなスペースや、石のタイルが張られた玄関など、必要なところを控えめに照らし出してくれます。細部に気配りの感じられる丁寧な造りに感動しました。
木材の経年変化もみどころのひとつ
築21年を迎えての経年変化も「スミレアオイハウス」の魅力のひとつ。
無垢のパイン材を用いた床は20年の時を経て、古民家のような風格を感じさせる床に変化しました。完成直後の様子を写真に収めた冊子を拝見したのですが、当時の床はまっさらで白に近い色味の床でした。
これはこれできれいですが、日焼けや生活の中で付いた傷、汚れによって変化した後の姿には「風格」とも呼べるような味わいが感じられます。たった20年余りでこんなに変わるとは驚きました。
よくパイン材は柔らかいので床に向かないと言われますが、経年変化を積極的に楽しめる人にはむしろおすすめなのかもしれません。
もともとは白っぽかった柱もこのとおり。美しい飴色に変化しています。
「木の家」を建ててみたいという方は、時間を経て木材がどう変わっていくか気になるところでしょう。「スミレアオイハウス」を訪れてみれば、その答えを自分の目で確かめることができます。
リビングでゆっくりテイクアウトやお茶を楽しむ
名作住宅を原型とした建物ではありますが、「スミレアオイハウス」にはいわゆるデザイナー住宅にありがちな気取りはありません。21年の時を経たこともあってか、初めてでも落ち着いて過ごせる雰囲気が漂います。いい意味で暮らしと地続きの宿と言えるでしょう。
宿泊場所に「ピカピカのインテリア」や「エキゾチズム」を求める人には向きませんが、いつもとはちがう家でちがう日常を体験してみたい人には打ってつけです。
コロナ禍ということもあり、僕らは外食を避け、テイクアウトで夕食を取ることに。訪れたのは老舗のお肉屋さん「マイスタームラカミ」。精肉をはじめ、ハムやソーセージ、コロッケなどの揚げ物、弁当やケーキまでラインナップは豊富です。
ハラミ焼肉丼と鴨肉とレバーを買いましたが、どちらも「さすがお肉屋さん」と唸らせられる味でした。
食後には、高架下にあるカフェ「オンド(Ond)」で買ったコーヒーとケーキをいただきました。カウンターつきのキッチンで妻がコーヒーをいれてくれました。
聞けば、このポットも小泉さんがデザインしたものだそうです。
こんな家なら、ステイホームも楽しそうです。
今なら「Go To トラベル キャンペーン」でぐっとリーズナブルに
寝室として使ったのはリビング横の畳敷きのお部屋。ほとんど仕切りのない「スミレアオイハウス」で唯一仕切れるのがこの部屋です。
あえて引き戸を使わず、朝の日差しで目覚めるのも気持ちがいいです。
障子から柔らかい光が入ってきて、自然と目が覚めるはず。
朝食は「スミレアオイハウス」を管理する萩原葵さんに教えていただいたパン屋さん「パサージュ・ア・ニヴォ」で。かつて萩原さん一家が使用していたという食器でいただきました。
優雅な朝のひとときです。
チェックアウトは12時なので、午前中はのんびり過ごしました。
帰りは、三鷹を経由して玉川上水沿いを散歩して吉祥寺まで歩きました。
僕が宿泊したときは通常価格で3万1193円でしたが(一棟貸しの料金。清掃代金や税金なども含む)、キャンペーンを利用すれば、ぐっとリーズナブルに宿泊することができます。この機会に、多摩エリアを満喫してみてはいかがでしょうか。
イラスト提供/スミレアオイハウス
●9坪の宿 スミレアオイハウス/東京・三鷹市にある建坪9坪の一棟貸しの宿
Source: 日刊住まい