リノベのプロが注目の街・蔵前に作ったホテルに宿泊体験してきました

今回は、東京の浅草からほど近い蔵前の地に今年9月にオープンしたばかりのホテル「NO SERVICE HOTEL(ノー・サービス・ホテル)」をご紹介します。

住宅からオフィス、店舗まで幅広くリノベーション・デザインを手がける「オフィス・エコー」の江本響さんが、ご自身の事務所に併設するかたちでオープンした2部屋だけの小さなホテルです。

「ノー・サービス」と謳う名称も含め、面白そうな匂いがプンプンします。

オープン前に宿泊体験させていただき、江本さんにお話をうかがってきました。

「自分がいいと思うもの」をかたちにしたホテル

「NO SERVICE HOTEL」があるのは、浅草からひと駅の蔵前。

都営大江戸線蔵前駅

都営大江戸線蔵前駅が最寄り駅

スカイツリーもこのあたりから見ると大きく見えて驚きます。

スカイツリーと墨田川

厩橋からスカイツリーをのぞむ

蔵前駅から歩いてすぐ、徒歩3分くらいの場所にホテルがあります。

No Service Hotel入口

うっかりすると通り過ぎてしまうような控えめな「HOTEL」というサイン。近づいてみると…、

No Service Hotel入口

「NO SERVICE HOTEL」の文字が。

こちらの建物、4階建てになっていて、2階が江本さんの事務所である「オフィス・エコー」、3階と4階がホテルになっています。

ワンフロアに1室ですから、たった2室のみの小さなホテルです。

今回は、江本さんにお部屋を案内していただきながら話をうかがいました。

オフィス・エコー 江本響さん

オフィス・エコー 江本響さん

こちらの事務所に移転されたのは2019年のはじめのこと。

物件探しの段階からホテルを始めることを念頭に置いていたそうです。

どうしてご自分でホテルを始めようと思ったんでしょうか?

「設計は、ひとりひとりのお客さんと向き合う仕事です。たくさんの仕事をこなしていくうちに、自分自身がいいと思うものを作ってみたいと思う気持ちが大きくなりました」

設計の仕事はクリエイティブな仕事であると同時に、さまざまなお客さんの要望に応えていくサービス業でもあります。

自分がいいと思うものを追求するには、自分自身が施主になるという選択がベストだったのでしょう。

ホテルなのに「ノーサービス」な理由って?

にしても、「NO SERVICE HOTEL(ノー・サービス・ホテル)」とは思いきったネーミングですよね?

No Service Hotelロゴ

「人的なサービスをほんどしないというのがこのホテルのコンセプトなので、それをそのままネーミングにしました」

ホテルといえばサービス業の代表のようなイメージがありますから、意外な感じもします。

「最近の宿泊施設は1階にラウンジがあったりして、宿泊客同士の交流を押し出すところも多いのですが、僕自身がそういうのが得意ではなくて。交渉とかつながりとかコミュニケーションよりも[泊まる]ことに集中できるような心地よい隠れ家的なホテルをつくりたかったんです」

そのため、チェックイン/チェックアウトはお客さんだけでも完結できる仕組みが整えられました。

ドアハンドルにはテンキーが設置されています。

ドアのテンキー

予約時にもらった番号を入力すると、部屋に入れるキーレスな仕組み。

オートロックなので、チェックアウト時はそのままでOK。

カギを置き忘れたりする心配もないので、かえって安心かも。

実際に泊まりましたが、まったく不自由がありませんでした。

さっと来てさっと泊まれるというムダのなさは、個人的にはホテルよりも気楽で心地よく感じたほどです。

江本さん曰く「No Service,but Comfortable」とのこと。

では、お部屋のなかを拝見してみましょう。

リノベーションならではの制約を活かしたインテリアデザイン

僕が泊まったのは、3階にある「301」。

No Service Hotel 301

ホテルとは思えない広々とした空間と、土間から3段になったステップ式の床が目を引きますね。

「水回りを設置する関係で床を上げる必要があって段差を設けたのですが、結果的には正解でした」

リノベーションでよく聞く話ではありますが、制約を逆手に取ってスタイリッシュに仕上げるのはさすが設計のプロですね。

No Service Hotel 301床

既存の床を剥がしたままの土間の質感とパーケットのフローリングの組み合わせもヤバイです。

No Service Hotel 301入口まわり

振り返って入口まわりを見るとディテールの宝庫。板壁に設置された小ぶりの時計や、

No Service Hotel 301時計

3つならんだ丸型ライト、

No Service Hotel 3013連ライト

そして、これ。

No Service Hotel 301収納

入口側のライトの配管を靴ベラやブラシの収納に流用しています。

「見せる配管」は最近のリノベの定番となりつつありますが、こういう利用法もあるんですね。

間取りもベッドもゆったりで寝心地は最高

ベッドはクイーンサイズでゆったりふかふかで最高でした。

No Service Hotel 301ベッド

ふだんダブルベッドで寝ている僕ら夫婦には、このプラス30センチがうれしいです。

No Service Hotel 301ベッド

クイーンサイズなのに、ベッドまわりが狭苦しくないのも素晴らしい。間取りはというと、こんな感じ。

No Service Hotel 301間取り

27平米ということで、ふつうのホテルとくらべてもかなりゆったり、ミニマムなビジネスホテルの倍近くある広さです。

個人的に目を引かれたのがレトロモダンな照明。

No Service Hotel 301照明

以前リノベーションしたヴィンテージマンションで不要になったものを譲り受けたそうです。

プロともなると、そういう入手ルートもあるわけか。

No Service Hotel 301夜

国際通りに面しているとあって、最初は夜の騒音を心配していましたが、思ったより静かでした。

鉄筋のビルですし、浅草の喧騒から適度に離れているおかげでしょう。

騒音といえば、この日は上階に小さいお子さんを含めた家族連れが宿泊すると聞いていましたが、足音もほとんど気になりませんでした。

No Service Hotel 301眺望

窓の外は大通りながら、並木の緑も目に入り、眺望もなかなかです。

ただ遮るものがないので、朝の眩しさは気になりました。

No Service Hotel 301朝

カーテンを閉めた状態で朝7時でこの明るさ。

個人的にはすっきり目覚められたのでよかったのですが、チェックアウトギリギリまで寝ていたい人にはちょっと眩しいかもしれませんね。

洗面とシャワーも広々&スタイリッシュ

続いては水回り。

こちらも細部までこだわって作られています。

No Service Hotel 301洗面

正方形の白タイルにグレーの目地がステキです。

No Service Hotel 301タイルとボトル

ボトルラベルもオリジナルなんですって。ディテールにこだわるだけで、印象は変わります。

No Service Hotel 301シャワー

特筆すべきは「約100×約120」という広々シャワーユニット。

もう少し広ければ最小ユニットバスも入るところに、あえてシャワーだけを設置したのが最高にぜいたく。

ホテルですし、浴槽付きの狭い浴室よりも断然こちらが正解だと思います。

「シャワーユニットはいろいろ探した末にタカラスタンダードにたどりつきました。サイズオーダーもできますし、シンプルでデザインも安っぽさがないです」

これならムダなくスペースが活用できますね。

気になる宿泊料金は一室で一泊21,000円から

ごらんのとおり、ゆったりとした空間と細部までこだわったインテリアで、心地よい気分が味わえるホテルですが、気になる宿泊料金は一泊21,000円から。

一室あたりの料金ですから、2人で泊まっても価格は変わりません。

No Service Hotel 301マグカップ

1人だとハードルが高い金額ですが、2人ならばノーマルなホテルと大差ない宿泊料金ですし、立地の良さまで含めると安いすらと言えそうです。

「泊まる人にお得感を感じて、リピーターになってもらいたい」という気持ちからの価格設定だそうですが、採算は取れるんでしょうか。

次回は、気になるお金の話や古いビルの活用などについて話をうかがいます。

 

【紹介したホテルはこちら】

NO SERVICE HOTEL(ノー・サービス・ホテル)

No Service Hotel 301

※ 取材協力 オフィス・エコー

Source: 日刊住まい

中古物件のエキスパートが沖縄につくった民泊物件はリノベのアイディアが満載

前回に引き続き、沖縄にこだわりの民泊物件を作った室田啓介さんにお話をうかがいます。

室田さんは「東京R不動産」でおなじみの会社「スピーク」に勤めながら、ご自身も「irregular」という会社の代表としてさまざまな物件を手がける、いわば中古物件再生のエキスパート。

今回は、室内のディテールをごらんいただきながら、その背後に隠された工夫と苦労に迫りたいと思います。

リゾート感とモダンさのバランスが絶妙なインテリア

室田さんの物件のベースは築50年超の木造平屋。

沖縄古民家をリノベーション

photo: 渋谷南人

セメント瓦が沖縄ならではのエキゾチックな雰囲気を醸し出します。

ガラス張りに変えられたエントランスまわりも明るくていい感じ。

無国籍風のインテリア

photo: 渋谷南人

リビングは「既存の天井を抜くことで天井高4.4メートルを実現した開放感」が印象的。

いわゆる沖縄古民家に寄せすぎるとよくある感じになってしまうし、かといって海まで歩いてすぐというリゾート物件でもないため、インテリアについては「沖縄や海を連想させる、ありがちなインテリアに寄せることなく、さまざまな国や年代のオブジェをミックスさせることで、無国籍な雰囲気と、一瞬どこに来たのかわからなくなるような不思議な感覚が生まれる感じを狙った」そうです。

モルタルの土間や白壁が演出するモダンさとのバランスも絶妙だと思います。

個人的にはリゾートホテルのコテコテな南国インテリアよりもリラックスできそうだと感じました。

洗面とトイレ

photo: 渋谷南人

洗面やトイレの床もモルタルで統一され、シンプルモダンな清潔感を感じさせます。

「(モルタルの施工は)現地の職人さんが慣れない工事だったらしくて、土間を囲んで養生テープの跡がぐるりと残ってしまったりしましたが、それもこの土地の現場ならではの味ということでよしとしました」

お金をかけずに洗練されたディスプレイを作る工夫

室田さんが沖縄に足を運んだのは5回ほどだそうです。

限られた訪問回数のなかで工事を進めるのはさぞや大変だったことでしょう。

そんな室田さんの苦労の結晶が、リビングの壁にしつらえられた飾り棚をはじめとする調度品の数々。

リビングの飾り棚

photo: 渋谷南人

この棚を初めて見たとき、古い置物やレトロなオーディオなどを組み合わせてディスプレイするセンスに感心しました。

飾り棚と雑貨の数々

photo: 渋谷南人

聞くところによると、これらの雑貨のうち室田さんがセレクトしたのはごく一部だそうで。

「実は、この点については自分の趣味をあまり信用していなくて(笑)。自分のセンスより信頼できる、toolboxではたらく渋谷南人というスタッフを巻き込んで、インテリアのディレクションをお願いしてイチから選んで集めたんです」

(※註:室田さんがお勤めのスピークは、以前ショールームをご紹介したtoolboxの系列会社に当たります)

中古物件再生のプロだからこそ、大事なところは人に任せたということなのでしょう。

飾り棚と雑貨の数々

photo: 渋谷南人

でも、イチから集めたということはけっこう費用がかさんだのでは?

「こういうものはアンティークショップで探すと高くて手が出ないので、主にリサイクルショップやオークションサイトで集めました」

考えてみれば、評価の定まったものばかり集めてもありきたりなインテリアになりがち。

リサイクルショップやオークションサイトで売られているのは素性の知れない品々が多いのですが、意外な掘り出し物や自分の感性に刺さる品が見つかる可能性もあります。

大事なのはお金よりもセンス、ですね。

運送会社と直接交渉してコストダウンする努力に脱帽

ちょっと真似できないと思ったのが、いろいろと買い集めた調度品の数々を沖縄まで運ぶ方法。

全国の郵便料金を比較すれば一目瞭然ですが、沖縄まで荷物を送るとメチャクチャ高くつきます。

インテリア

photo: 渋谷南人

せっかくリサイクルショップやオークションサイトで安価に入手しても、輸送費が高額になってしまえば意味がありません。

そこで、室田さんはダメ元で沖縄の運送会社をあたり、船の空きスペースに自分の荷物を積んでもらえないか交渉したそうです。

これがうまくいき、正規のルートにくらべてかなり安い額での輸送に成功。

こういうタフな交渉はなかなか僕たち素人ができることではないと感じました。

港までは自分のクルマで荷物を運ばねばなりませんし、沖縄でも倉庫に一時保管してもらった荷物を、自分が現地入りするタイミングで物件まで運んでもらわねばならず、交渉力だけでなく文字通り足を使っての作業もこなしているわけで、遠隔地でゼロから物件を立ち上げる大変さを痛感しました。

「物件の肝」は屋内バーベキュー可能なダイニングキッチン棟

さて、室田さんにこの物件の目玉を聞くと「ダイニングキッチン棟」と即答されました。

ダイニングキッチン棟

photo: 渋谷南人

室田さんが物件を考えるときに大事にしているのは、物件の外(周囲)の環境との関係性だそうです。

「実は、僕の物件では周囲の景観や環境などを積極的に売りにはできないと思っていました」

そうなんですか?

「美ら海水族館」も「赤墓ビーチ」も車で10~20分だと聞きましたが。

「でも、目の前が海だというわけではないですし、近所にはふつうに建売住宅がならんでいたりします。物件の中だけで完結して楽しめる工夫が必要だと考えたんです」

irregular INN Nakijin

photo: 渋谷南人

「そこで、敷地内にわざわざダイニングキッチンのためだけの建物を新たに造り、グレードの高いバーベキューセットを設置しました」

室内バーベキューが楽しめる

photo: 渋谷南人

「天気が悪くて出かけられなくても室内でバーベキューが楽しめる――この体験がこの物件の肝です」

たしかに、沖縄に旅行したけれど台風にぶつかってホテルに缶詰めになったという話はよく耳にしますものね。

ダイニングキッチン

photo: 渋谷南人

ありきたりなホテルに閉じ込められては退屈と感じるかもしれませんが、こんなダイニングキッチンがあれば屋内でも楽しめて良い思い出が作れそう。

周囲の環境を頼りにしないことで、天候に左右されない物件が生まれたともいえます。

事実、室田さんの物件のAirbnb(エアビーアンドビー)のレビューを見ると、こんな言葉が。

「当日は天候に恵まれませんでしたが、その分宿でゆっくり過ごし、贅沢な時間が持てました。見た事のない海外ブランドのBBQ機材やハンモックなど、子供も一緒になって家族みんなで楽しめました」(レビューより引用しました)

まさに室田さんの狙いが当たったということでしょう。

宿泊料金をどうやって決めるか聞いてみた

これだけよく練り上げられた物件ですから、宿泊料金もさぞ高いことだろうと思いきや、話をうかがった7月16日時点で宿泊料金は一泊18,000円(一棟貸し4名まで、追加料金で7名まで可)からと意外なほどリーズナブル。

夜の外観

photo: 渋谷南人

Airbnb(エアビーアンドビー)の場合、清掃代金を別途払う必要がありますが、それにしても安すぎませんか?

「素泊まりなので、たしかに沖縄のリゾートホテル相場と比べたらずっと安いです。

Airbnb(エアビーアンドビー)の仕組み上、最初のレビューがそこそこ集まらないと検索に引っかかりづらいそうなので、まず最低限のレビューが集まるまで辛抱しています」

そうかあ、こんなに良い物件でも作っただけではお客さんは集まらないんですね。

夜のダイニングキッチン棟

photo: 渋谷南人

現在はお試し期間での出血サービスというところでしょうか。

「これでも、今帰仁村(なきじんそん)の周辺の物件とくらべたら高いくらいなんですよ。でも、屋根があって寝られればいいというゲストには泊まってほしくないし、僕のように“この宿に泊まりたい”というお客さんに来てほしいんです。一般的なホテルに泊まると一泊ひとり1万円くらいはしますから、家族4人で泊まったら4万円ですよね。自分としてはこの金額が基準になってくるだろうと思っています」

うん、この物件ならひとり1万円でも十分に納得だと思います。

Airbnb(エアビーアンドビー)は自分の物件の値段を自分で決めるので、客観的な視点を持つことや値付けに対する自分なりの根拠を持つことが大事なんだと感じました。

セメント瓦の屋根

photo: 渋谷南人

中古物件再生のプロが手がけたこだわりの民泊物件、いかがだったでしょうか?

僕も入居者さんに使ってもらうための山小屋を整えている最中なので、すごく勉強になりましたし、民泊の醍醐味も少しわかってきたような気がしました。

次の旅行ではホテルの代わりに民泊を探してみるのもいいかなと思っています。

 

【紹介した物件はこちら】

irregular INN Nakijin

photo: 渋谷南人

irregular INN Nakijin(イレギュラー・イン・今帰仁)

Source: 日刊住まい

出発点は「沖縄に別荘がほしい」。中古物件のエキスパートが民泊物件をつくった理由

今回は、沖縄にこだわりの詰まった民泊物件を作った方の体験談をご紹介します。

百聞は一見にしかず。まずは写真をごらんください。

中古物件のエキスパートがなぜ民泊を?

沖縄古民家をリノベーション

photo: 渋谷南人

無国籍風のインテリア

photo: 渋谷南人

すごく素敵なお宿だと思いませんか。

手がけたのは先日お仕事で知り合った室田啓介さん。

室田啓介さん

「東京R不動産」を手がける会社「スピーク」に勤めながら、ご自身も「irregular」という会社の代表としてさまざまな物件の再生を手がけている方です。

そんな中古物件のエキスパートがなぜ民泊を始めたんでしょう?

東京にいながら沖縄の物件を手がけるって大変じゃないの?

インテリアをそろえるコツやノウハウは?

などなど、気になることいろいろをご本人に聞きました。

動機はシンプル「沖縄に別荘がほしい」

まっさきに聞きたかったのは「どうして今、民泊を始めようと思ったのか」です。

2020年の東京オリンピックを見据えて宿不足解消の期待を受けて始まった民泊ですが、さまざまなトラブルが報じられると世間の目はすぐに厳しくなりました。

契機となったのは昨年に施行された「民泊新法」。

これに自治体ごとの独自規制も乗っかり、一部の都市では民泊はかなり難しい状況に追い込まれています。

かつて僕のまわりで「民泊は儲かる」と飛びついた人はみな手を引きました。

こんな逆風のなか、民泊を始めた室田さんの動機はひじょうにシンプル。

「沖縄に別荘がほしかったんです」

赤墓ビーチ

photo: 渋谷南人

聞けば、室田さんの奥様は沖縄出身。

お子さんも連れての里帰りもあって毎年何度か沖縄に行くようになり、その魅力を実感するようになったといいます。

でも、僕と同じく東京生まれ東京育ちの室田さんにとっては慣れ親しんだ東京での仕事を捨てて生活のリズムもまったくちがう沖縄に移住するという選択肢はなかったそうです。

かといって、年に数回泊まるためだけに別荘を買うのも割に合わない話。

ベッドルーム

photo: 渋谷南人

そんななかで思いついたのが民泊を作るという選択肢だったそうです。

「沖縄に家族で訪れるときには自分が宿泊する」

「使わないときは旅行者に貸す」

そうすることでお金も生まれるし、物件も空気が淀まず良好な状態に保たれます。

民泊と言うと儲け話ばかり聞かされてきた僕には、室田さんの言葉は新鮮に響きました。

室田さんにとって、自分が望む別荘の条件を整理したとき、いちばん合理的に実現できる選択肢が民泊だっただけのことなのでしょう。

でも、これを実行に移す行動力ってすごいです。

原動力は「自分で泊まりたいと思える宿泊施設を作りたい」

沖縄に民泊を作ると思い立った室田さん、試しに自分でも民泊物件に泊まってみたそうですが、感想はひとことで言えば「ダサい」という印象だったそうです。

「もともとは、空いている部屋をシェアするというシェアリングエコノミーの文脈ではじまったAirbnb(エアビーアンドビー)ですが、日本では圧倒的に投資目的、ビジネス目的でやっている人が多いんですよ。そういう人が作る物件って家具はぜんぶ量販店でそろえて「泊まれさえすればいい」っていう物件ばかりなんです」

たしかにドキュメンタリーやワイドショーで取り上げられる民泊物件って、みんなベタベタのワンルームみたいなインテリアが多かった気がします。

個人的にぜんぜん泊まりたいとは思えなかったなあ。

「そうでしょう?Airbnb(エアビーアンドビー)で海外の物件を見ていると、すごくおしゃれな物件がたくさんあって“ホテルじゃなくてここに泊まりたい”って思わせるんですよ。だから“自分で泊まりたいと思えるような別荘”を作って、それを宿として公開することで、コストと効率重視で作られた宿とはまったく異なる、居心地のいい宿が作れるのではないか?と考えたんです」

ダイニングキッチン

photo: 渋谷南人

以前から沖縄のホテルに泊まるたびにガマンしていたという室田さん。

どこも似たり寄ったりな内装に飽き飽きしていたそうです。

これが室田さんを動かす原動力だったのですね。

この点は、世田谷で賃貸マンションを営む僕にもすごく共感できます。

世の中の賃貸マンションで自分が住んでみたいと思う物件は本当に少ないですから。

遠隔地で民泊を営むには代行業者との契約が必須

室田さんの物件はカテゴリーでいうと旅館業の許可を取得した「簡易宿所」で常駐するスタッフはいません。

夜の外観

photo: 渋谷南人

お客は一組だけの一棟貸し切りスタイルですから、気兼ねなくゆったりとした時間が過ごせます。

でも、室田さんは東京にお住まいで受付業務や清掃はできないはず。

「民泊新法」施行前は雑な物件管理がまかりとおっていたようですが、現在では法律が厳しくなったと聞きますし、そのへんをどうクリアしているのか気になります。

室田さんによれば、宿泊者からパスポートの控えを取る必要があったり、キーボックス番号は宿泊者ごとに変える必要がある(※那覇市以外の沖縄県の場合)など、やはり管理は大変だそうです。

そのため、メールや電話での応対とパスポート写真の事前の収集といった宿泊に関する手続きは「メール代行業者」に委託し、鍵については玄関ドアにRemoteLOCK(リモートロック)という鍵を設置することで、ゲストごとに異なる暗証番号が自動的に割り振られる仕組みを使っているそうです。
なるほど、そういうサービスがあるんですね。

マットレスを敷いたところ

一方、使用後の室内の清掃などは「清掃代行業者」に委託しているそうです。

「代行業者さんに言われたのが“お客さんはそんなに丁寧に物件を扱ってくれないですよ”ということでしたね。宿泊客がシーツをビショビショにするとかラグを食べ物で汚すとか、よくあるそうです」

ああ、それじゃ清掃はプロに任せないと難しいかもしれないですね。

万一の事態(たとえば、台風で窓ガラスが割れた!など)のときも「代行業者」がトラブル対応するようになっているそうです。

遠隔地で民泊を運営するには、こうした代行業者との連携が必要なんですね。

気になる費用ですが、Airbnb(エアビーアンドビー)では宿泊客が宿泊費とは別に清掃代金を支払うシステムになっているそうですから、基本的にはそれでまかなう感じだそうです。

民泊をやるにあたって地元の人たちの反応は?

民泊のハードルといえば、個人的に大変だと思うのはご近所の目。

日本という国はどこでも、ご近所を気にしないと暮らしづらい印象があります。

沖縄でも隣の家が民泊になって急に観光客(とくに外国の人)が出入りしだしたら、警戒されるんじゃないでしょうか?

「たしかに民泊では本当にトラブルが多いと言われます。夜中に洗濯機の使い方がわからない旅行客が隣に住んでる一般人の部屋をピンポンしたなんて話も聞きますし」

うわ、自分のマンションで起こったらと思うとゾッとする。

物件とその周辺

photo: 渋谷南人

「僕の物件がある沖縄の今帰仁村(「なきじんそん」と読むそうです)は、那覇から高速で1時間半ほど行って、そこからさらに30分ほどかかったところにあります。周辺に住む方々はご年配の方がとても多く、本当に静かなんです」

そんな静かなところだとお客さんが騒いだりしたらトラブルになりませんかね?

「僕もそう思って、ご近所のおじいちゃんおばあちゃんに、民泊ができたら嫌じゃないですか?って話を聞いてみたんですよ。そうしたら、このへんは活気がなくて寂しいから、いろんな人に来てもらってどんどん騒いでほしいって言われたんです。むしろ窓全開で騒いでもらっていいって(笑)」

なるほど、都市部では騒音扱いされがちな人の笑い声や騒ぎ声も、高齢化が進む村では歓迎されることもあるんですね。

自治体ごとに異なるルールが存在することからもわかるように、そのエリアのルールと風土を理解することが民泊運営のカギになると感じました。

インテリア

photo: 渋谷南人

次回は、アイデアが詰まったインテリアを作り上げるまでの苦労と工夫についてうかがいます。

 

【紹介した物件はこちら】

irregular INN Nakijin

photo: 渋谷南人

irregular INN Nakijin(イレギュラー・イン・今帰仁)

Source: 日刊住まい